スマートグラスを2ヶ月使い、この端末で動くアプリまで作りました。いいところも、正直きついところも全部書きます。
スマホ、ウォッチ、その次
スマートフォンが手のひらを占領して十数年が経ちました。次にウォッチが手首に来て、通知を確認するために鞄からスマホを取り出す動作が消えました。
では、その次はどこに来るのか。
私はずっと「視界」だと思っていました。
手のひら、手首、そして視界へ。情報を受け取る場所は少しずつ上がってきた
視覚に直接情報を表示できるARデバイスには、大きな可能性があります。似た技術にVRがありますが、あちらが売りにしているのは「没入」です。現実から切り離して、別の世界に入る体験。対してARは逆で、現実の側に情報を薄く重ねる。だからこそ生活に溶け込める余地がある。
スマホ → ウォッチ → グラス。
この系譜の先にあるものが、生活を変える体験を作れるんじゃないか。そう思って Even Realities の G2 を買いました。
なぜ G2 だったのか
スマートグラスは他にもあります。その中で G2 を選んだ理由は2つでした。
ひとつはバッテリー。事前情報として「一日つけていられる」という評価が多かった。毎日身につけるものである以上、ここが崩れたら全部崩れます。
もうひとつは、自分でアプリが作れること。
G2 には Even Hub という仕組みがあり、サードパーティ製のアプリを入れられます。つまりメーカーが用意した機能を使うだけの箱ではない。
私は「グラスで何ができるか」を試したかった。ならば作れる端末を選ぶべきでした。この判断は正解だったと今も思っています。
モノとしての完成度は高い
まずハードウェアから。ここは素直に良いです。
質感が高い。メガネ本体、充電ケース、別売りのリング(R1)。どれも安っぽさがありません。毎日持ち歩いて毎日開け閉めするものなので、ここが雑だと確実に嫌になります。そうならない。
見た目にチープさがない。これは私にとって大きくて、正直ずっとかけていたいと思っています。スマートグラスというと「いかにも」なデザインを想像する人が多いと思いますが、G2 はぱっと見ただの眼鏡です。
バッテリーはよく持ちます。ただし条件付きで、常駐するアプリを動かしっぱなしにしていればさすがに減ります。「一日持つ」を鵜呑みにして使い方を選ばないと、期待は裏切られます。
そして操作性。ここで R1リングが効きます。
グラス単体だと、操作はツル(テンプル)を指で触ることになります。つまり毎回、腕を顔まで上げる必要がある。これが地味に、そして確実に面倒です。
リングがあるとそれが要らない。手を下ろしたまま、指先だけで操作できる。G2 を使う上での最大の利点はこれだと思っています。
純正アプリは、正直きつい
ここからが本題です。
端末は気に入っています。だからこそ書きますが、プリインストールされているアプリ群は、全体的に使いづらく、性能も微妙です。
会話サポート ── これは本当に良い
先に良かったものから。会話をその場で文字にして要点をまとめてくれる機能です。
話し声が要点に圧縮されて、視界の端に残る
正直に言うと、普段の雑談では、そこまでありがたみが分かりません。目の前の相手の言葉が文字で見えても、聞けば分かるからです。
評価が変わったのは、講義や講習を聞きに行ったときでした。
要点とキーワードを、かなりの精度で拾ってきます。しかも内容が正確なことが多い。これには素直に驚きました。話を聞きながら、同時に「今の話の骨子」が視界の端に出ている状態は、想像以上に理解を助けます。
録音データそのものは取り出せませんが、簡易的な文字起こしと要約が残るだけでも十分に価値があります。
ただし、音声認識にありがちな誤字・誤認識はそれなりに出ます。固有名詞や専門用語は特に崩れる。後から AI に通して意訳・補正をかける工程は実質的に必須で、そのまま議事録にはできません。
それでもこれは、G2 を買ってよかったと思える機能です。
テレプロンプター ── 誰のための機能なのか
一転して、これはかなり厳しい評価になります。
原稿を視界に表示して、話す速度に合わせてスクロールしてくれる機能です。発想は分かります。プレゼンや講演で使えれば強力でしょう。
しかし、追従性が悪すぎます。
こちらの発話に合わせて動いてくれるはずが、全然動かない。かと思えば突然動く。手動のスクロールもうまく効かない。
原稿を見ながら話すという行為は、わずかなズレが致命的です。今どこを話しているか分からなくなった瞬間、話が止まります。その状況で「動かない・突然動く」を繰り返されると、使いものになりません。
正直、誰が実運用できるのか分かりませんでした。現時点では機能として成立していないと思います。
EVEN AI ── 単発ならいい。会話は不安定
「Hey Even」と呼びかけて起動するAIアシスタントです。
単発の質問をする用途なら、割と便利です。ふと思いついたことを、スマホを取り出さずに聞ける。これはグラスならではの体験で、素直に良いと感じます。
ただし、会話を続けようとすると不安定になります。具体的には、こういう症状が出ます。
会話の途中で、突然反応しなくなる
画面が突然消える
「Hey Even」を何度連呼しても、しばらく反応が返ってこない
しばらく待てば復帰するのですが、会話の流れは完全に切れます。AIとの対話は文脈が命なので、ここで切れると最初からやり直しになります。
そしてもうひとつ、これは地味に効く不便があります。
一度表示が終わったテキストを、G2側では見返せません。
会話履歴は iPhone 側のアプリでは確認できます。しかしグラス側では、流れていったテキストにもう一度アクセスする手段がない。
「今の答え、もう一回見たい」と思っても、スマホを取り出すしかない。
これは体験として本末転倒です。スマホを取り出さなくていいのがグラスの価値なのに、確認のためにスマホを出すことになる。
ニュースアプリ ── 退屈しのぎには
標準のニュースアプリも時々使います。
ジャンル分けがなく、ニュースがざっくり縦に並ぶだけ。読みたいものを選ぶという体験になっていません。手持ち無沙汰なときの退屈しのぎとしては悪くない、という程度です。
その他、気になったところ
明るさによっては違和感がある
普通のメガネとは、やはり違います。レンズ越しの見え方が、周囲の明るさによっては「いつもと違う」と感じる場面があります。常時気になるほどではありませんが、無いとは言えません。
iPhone のバッテリーをモリモリ食う
これは意外と語られていない気がします。G2 本体のバッテリーは持ちます。しかし母艦である iPhone の減りが明らかに速くなる。
グラス側は減らない。減っているのは母艦の方
G2 の処理の多くは iPhone 側で走っているので、構造上そうなるのは理解できます。ただ「グラスのバッテリーは一日持つ」という評価だけを見て買うと、別のところで電池が減っていることに後から気づきます。
接続がよく切れる
グラスとの接続も、リングとの接続も、それなりの頻度で切れます。
グラス、リング、iPhone。3つが常に繋がっている前提で成立している
これは私だけの症状ではないようで、他の利用者のレビューを見ても接続の不安定さは繰り返し指摘されています。日常的に使う端末として、ここが一番改善してほしい部分です。
それでも、この端末を気に入っている
純正アプリをかなり厳しく書きましたが、私はこの端末を気に入っています。
矛盾しているようですが、そうではありません。ハードウェアとソフトウェアの完成度に、明確な差があるというだけの話です。
そして重要なのは、ソフトウェアの側はまだ変わりうるということです。
Even Hub があることの意味
G2 には Even Hub という、外部の開発者がアプリを作って公開できる仕組みがあります。これが決定的だと私は思っています。
メーカーが用意した機能だけで完結する端末なら、その端末の限界はメーカーの想像力の限界になります。テレプロンプターが使いものにならなければ、それで終わりです。
しかし外部の開発者が作れるなら、誰かが「こんな使い方があったのか」を持ち込んでくる可能性が残る。
実際、私自身もこの端末向けにアプリを開発し、公開まで持っていきました。作ってみて分かったのは、制約はかなり多いということです。入力手段は極端に少なく、表示できる要素にも上限があり、公式ドキュメントに書かれていない挙動もあります。
正直、簡単ではありませんでした。しかし「作れる」ということ自体が、この端末の最大の資産だと思っています。
開発の詳細については、別途記事を書く予定です。
メガネは「次のスマホ」になるのか
冒頭の問いに戻ります。
現時点での私の答えは、「まだならない。ただし方向は間違っていない」です。
接続は切れる。母艦の電池は食う。純正アプリの完成度には不満がある。今日この瞬間にスマホを置き換える端末ではありません。
しかし、手を上げずに情報を受け取れるという体験は、一度慣れると戻れません。
ウォッチが「スマホを取り出す動作」を消したように、グラスは「手を上げる動作」を消しにきています。この方向自体は、確実に正しいと感じています。
そして、その完成度を上げていくのは、必ずしもメーカーだけの仕事ではありません。作れる仕組みが開かれている以上、そこに参加する余地がある。
だから私はこの端末を使い続けますし、この端末向けに作り続けます。その先に何があるのかを、もう少し見てみたいと思っています。
本記事は Even Realities G2 を自費で購入し、2ヶ月間 日常的に使用した上で書いています。メーカーからの提供や依頼はありません。
記事中の映像・図版はイメージであり、実機の撮影ではありません。


