AIをもっと速く動かしたい。ならば、計算するチップを増やせばよい――それだけでは済まない。チップどうしが大量のデータをやり取りする仕組みも、AIを支えている。
そのやり取りに光を使う技術で、国内の開発が進む。NTTグループなどは10月20日、光と電気を組み合わせた部品の量産技術開発を発表した。同日、Preferred Networks(PFN)とTenstorrentも、光電融合技術を取り入れたAIプロセッサーの共同研究開発を発表している。NTTの発表/PFNの発表
ただし、「光でAIの計算をする新製品」が登場したわけではない。今回の話を理解するには、まず、計算することと、計算に使うデータを運ぶことを分けると分かりやすい。
チップを速くするだけでなく、チップの間を変える
たとえば、複数の人で大きな仕事を分担する場面を考えてみよう。一人ひとりの作業が速くても、互いに資料を渡すのに時間がかかれば、全体の仕事は進みにくい。
計算機の中でも、演算を担うチップとは別に、データを受け渡す接続が必要になる。NTTの発表が挙げる課題は、この通信に伴う消費電力の増大だ。
そこで使うのが「光チップレット」。CPUやGPUなどの演算チップの間で、データを電気信号から光信号に変えて送るための部品だ。足し算や掛け算を光に任せる説明ではなく、計算をする部品どうしのつなぎ方を変える話である。光チップレットの説明
家庭まで届く光回線を、そのままパソコンの中へ差すわけでもない。NTTは、光の回路と電子回路を小さく高密度に組み合わせた部品として説明している。
計算するチップと、データを光で運ぶ部品の役割を示す編集部の模式図。実機の配線・部品数や通信速度を示すものではありません。
量産へ向けて、つくり方から見直す
NTT側の今回の計画で目を引くのは、部品の性能だけでなく、製造・検査・組み立てまで扱うことだ。NTTイノベーティブデバイスなど4社が、工場への適用を見据えた試験的な生産ラインをつくり、評価する。NTT本体は助言役として加わる。
目標は、研究開発時点と比べて生産性を10倍以上にすること。「AIが10倍速くなる」という数字ではない。
研究でよい部品ができても、多くの計算機に載せるには、安定してつくり、検査し、ほかの部品と組み合わせられなければならない。今回の計画は、その段階へ踏み込もうとしている。NEDOの製造技術開発テーマ
PFNは、光電融合を使うAI計算機の設計へ
一方、PFNとTenstorrentが取り組むのは、光電融合技術などを使ったAIプロセッサーのシステム化だ。PFNはメモリを立体的に組み合わせ、大量のデータを高速に読み書きするAI用チップを担当する。TenstorrentはCPU側を担当し、それらを組み合わせたシステムを両社で開発する計画だ。AIの学習と、学習済みAIを動かす推論の両方を対象にしている。
二つの発表は同じNEDO事業の大枠にあるが、製造技術と設計技術という別の研究テーマだ。NTTとPFNが一つの完成品を共同発表した、という話ではない。NEDOの設計技術開発テーマ
10月20日のNTT・PFN・NEDO発表を整理。10倍は製造生産性の目標、2031年度はPFN側の研究期間です。
2031年度は発売日ではない。今回の発表には、完成したAI計算機の処理速度や価格、消費電力の比較結果も示されていない。手元のAIがすぐ安く、速くなると期待するには、まだ早い。
新しいAIモデルの発表では、どうしても答えの賢さや処理速度に目が向く。けれど、そのAIを動かす計算機も、できあがったままではない。データを運ぶ部品から、工場でのつくり方まで変えようとしている。
注目したいのは、そこだ。強いチップを用意するだけでなく、チップどうしを効率よくつなぎ、必要な数を安定して供給する。その開発が、AIを使うための土台を厚くしていく。次は目標の大きさだけでなく、実際に組み上がったシステムでどれだけ効果が出たのかを知りたい。
出典
NTT:光電融合デバイスの量産技術開発(2026年10月20日) PFN:Tenstorrentとの共同研究開発(2026年10月20日) NEDO:光チップレットの製造技術開発、実施体制(2026年10月20日) NEDO:光電融合技術を実装したxPU設計開発、実施体制(2026年10月20日)


