子どもが毎日のようにアプリを開くようになった。
作り手として、これほど嬉しいことはない。
REPETAは、小さな暗記カードから始まった。覚えたい言葉を登録し、できたものと、まだ曖昧なものを分ける。そこへ、頑張ったらごほうびがもらえる仕組みを加えた。
すると、子どもたちは昨日の続きを楽しみにして、自分から戻ってくるようになった。
「これはいける」
そう思った。けれど、その最初の成功には、大きな穴があった。
「覚えた」を押せば、覚えていなくても育ってしまう
自己申告だけの近道を閉じ、testで確認できた記憶の回復を育成へ結び直した。
- 01見る
- 02思い出す
- 03答える
- 04確認する
- 05育つ
初期のREPETAでは、暗記カードをめくり、自分で「覚えた」と判定すると、育成のごほうびも進むようになっていた。
分かりやすい仕組みだと思っていた。ところが子どもの使い方を見ていると、「覚えた」を次々に押して、気持ちよく先へ進んでいく。
画面では連続成功の演出が出る。モンスターも育つ。けれど、その間に「何も見ずに思い出せたか」という確認はない。
これは、子どもがずるをしたという話ではない。
アプリが用意した最短経路を、素直に見つけただけだ。
報酬まで一番短く進める道があるなら、そこを通る。ゲームなら当然の攻略である。学習アプリの側が、その道を学習と一致させられていなかった。
開発記録には、この状態をかなり率直に「報酬ハック」と残している。カードを眺めて自己申告する練習と、答えを自分の中から取り出す確認が、同じ重みで扱われていた。
ごほうびを付けたことが問題なのではない。何をした時にごほうびが出るかが間違っていた。
ごほうびを捨てず、配線を付け替えた
ここで、ごほうびそのものを外す選択もあった。
しかし、ごほうびを楽しみに子どもたちが毎日戻ってくる姿も、目の前にある。その力まで消したくはなかった。
そこで2026年6月、学習と育成の配線を組み替えた。
練習する──カードを見て、まず覚える。ここでは育成報酬を出さない。
確認する──覚えた内容をテストで取り出す。
ごほうびを受け取る──正解した分だけ、お肉が貯まる。
自分の手で育てる──庭へ行き、お肉を一個ずつモンスターへあげる。
練習と確認を分け、報酬を自己申告ではなくテストの正解へ付け替えた。
しかも、お肉が自動で育成へ消えるのではなく、一度プールへ貯まり、子どもが庭で自分の手で与えるようにした。学習の結果と、育てる喜びの間に、小さな手触りを残したかった。
カードを何枚も眺めることと、覚えた内容を取り出すことは同じではない。テストが単なる採点ではなく、思い出す練習にもなりうることは、記憶研究でも繰り返し調べられている。
ただし、研究で使われる自由再生や短答と、REPETAの4択を同じものとは言えない。だから「科学的に正しいアプリができた」とは考えなかった。少なくとも、何も確かめずに報酬だけ進む道を塞ぎ、学習の結果と育成を以前より近づけた。ここで言えるのは、そこまでだ。
直したら、翌日の問題がなくなりかけた
配線を直せば終わり、とはならなかった。
REPETAには、覚えた内容を長い間隔へ送るテストがある。しっかり定着したものを、翌日も何度も出し続けないための仕組みだ。
ところが、そのテストを毎日のごほうびの入口として使うと、合格したカードは先の復習日へ送られる。翌日になると、挑戦する問題がない。お肉も手に入らない。昨日せっかく回った循環が、今日は止まってしまう。
長期記憶のためには、時間を空けたい。毎日の習慣のためには、今日も小さな挑戦がほしい。
どちらも大切だが、一つのテストへ両方を背負わせると衝突する。
そこでテストを二つの役割へ分けた。
毎日の確認テストは、その日に練習した内容を確かめ、通常の復習周期へ戻す。
長期定着を見るテストは、広い範囲を確かめ、できた内容を長い間隔へ進める。
今日できたことを確かめる仕組みと、長く覚えているかを確かめる仕組みは、別々にした方がいい。
この区別は、最初の設計図から生まれたわけではない。実際に一日の循環をつなぎ、翌日の状態まで想像した時に、初めて見えた。
続いたから、次の問題が見つかった
一日の終了で学習体験を区切りながら、記憶の定着は複数日にまたがって判定する。
ごほうびを楽しみに続ける姿を見て、REPETAには「継続ブースト」も加えた。
毎日学習すると連続日数が積み上がり、3日続くごとに卵の抽選ブーストが一段上がる。長く続けるほど、レアなモンスターと出会える可能性が少しずつ広がる。
Ownerである私の家庭内観察では、この仕組みを加えてから、子どもたちは連続日数と次の卵を楽しみにしながら、以前にも増して学習を続けるようになった。
もちろん、これは一家庭での観察であり、REPETAが一般に習慣形成を起こす証明ではない。習慣研究でも、自動的に行動できるようになるまでの期間には大きな個人差がある。成人を対象にした研究結果を、子どもの学習アプリへそのまま当てはめることもできない。
それでも、実際に続いたからこそ見えたことがある。
2026年8月、子どもの端末では卵の在庫が80個に達していた。当時は累計マスター20件ごとに新しい卵が増える設計だった。数百系統を長く集めてほしいのに、この速度では楽しみを短期間で先食いしてしまう。
現在App Storeで公開中の1.0.1では、新しい卵を得る節目を20から200へ調整した。
ただし、すでに手に入れた80個は消していない。在庫へ上限を付け、いっぱいになった時の報酬を黙って捨てる案も退けた。
運営側の数字を整えるために、子どもが得たものを後から没収する。それでは、続けてくれた時間への信頼を壊してしまう。
成功した機能にも、成功したからこそ起きる故障がある。
続かなければ見えなかった問題だ。だから、在庫が増えすぎた事実は失敗であると同時に、実際に遊び続けてもらえた証拠でもあった。
足した機能を、外すこともあった
同じ考え方は、漢字機能でも繰り返した。
漢字が苦手な子どもたちを見て、なんとか覚えさせてあげたい。その思いから、小さな漢字デッキへ、筆順、字形の判定、書く回数、テスト、復習周期を一つずつ足していった。
しかし、足したものが全部残ったわけではない。
一時期は、紙へ書いた漢字をカメラで撮り、お手本と見比べる機能も作った。けれど、学習の途中で紙を用意し、撮影し、結果を確認する流れは重い。最終的には撤去し、画面へ直接書きながら字形を確かめる方法へ戻した。
線から外れたら画面が赤くなる。すると子どもは、ゆっくり、丁寧になぞろうとする。その反応を見て、即時feedbackの方を磨いた。
機能を増やした数は、開発の価値ではない。
子どもの目の前に残すべき手順は何か。邪魔になっている手順は何か。
それを見つけるためなら、せっかく作った機能を外すことも開発だ。
子どもは、仕様書どおりには使わない
学習科学には、参考にできる知見がある。
時間を空けて学び直すこと。答えを見直すだけでなく、自分で思い出してみること。同じ文脈で繰り返し、始める負担を小さくすること。
一方で、ゲーム化の研究は「付ければ効く」という単純な結論ではない。平均では小さな正の効果が報告されていても、動機や行動への効果は条件によって不安定だ。外的報酬が、もともとあった興味を弱める条件も長く議論されてきた。
だから研究論文だけを読んでも、REPETAの正解は出てこない。
子どもは、仕様書に書いた理想の順番では使わない。「覚えた」を連打する。気持ちいい演出を何度も見ようとする。卵を想像以上の速さで集める。こちらが主役だと思っていた機能を通り過ぎ、別のところで目を輝かせる。
それを困った使い方として押し戻すのではなく、設計への返事として受け取る。
REPETAを作りながら学んだのは、子ども向けアプリの開発は、完成図へ機能を足していく仕事ではないということだった。
観察する。抜け道を見つける。配線を変える。もう一度使ってもらう。続いた先で、また調整する。
その繰り返しで、小さな暗記カードは、学習、確認、ごほうび、育成、復習がつながるアプリへ育っていった。
つくる側が、明日から確認できること
継続日数に応じて確率をboostし、確定報酬ではなく「また明日も」の期待を育てる。
- 011 DAY
- 023 DAYS
- 037 DAYS
- 04BOOST
子ども向けに限らず、ポイント、streak、badge、couponなど、報酬のあるサービスを作っているなら、次の四つを確かめてみてほしい。
ユーザーが、望む行動をせずに報酬だけ取れる最短経路はないか。
今日の成功処理が、翌日の再開を塞いでいないか。
長く続けた人ほど、報酬が余って価値を失う設計になっていないか。
経済を調整する時、すでに得た資産を一方的に奪っていないか。
この四つは、机上の仕様書だけでは見落としやすい。実際に使う人を見て、初めて分かる。
REPETAは、2026年8月19日からApp Storeで無料公開している。完成したから公開したのではない。家庭で使われる中で見つかる次の答えを、これからも設計へ戻していくためだ。
使っていて気づいたことや、子どもが思いがけない使い方をした場面があれば、contact@ediforce.co.jpへ聞かせてもらえたら嬉しい。


