柔らかい布と、形を保つコップ。生成した概念映像であり、Figureの実機写真・実演ではありません。
洗濯が終わった。乾燥も終わった。けれど、ソファにはまだ、タオルの山が残っている。
洗って乾かすところまでは機械に任せられるのに、広げて、端をそろえて、畳んで、しまうところは人の仕事。「そこまでやってくれたら助かるのに」と思ったことはないだろうか。
実は、この何気ないひと手間が、ロボットにとっては難問だ。人間には簡単に見える作業ほど、機械にとっても簡単とは限らない。
コップは形を保つ。タオルは、つかむたびに形が変わる
机に置いたコップを想像してほしい。横にずらしても、ひっくり返しても、コップそのものの形は変わらない。どこにあって、どちらを向いているかが分かれば、手を伸ばす場所を考えやすい。
では、くしゃくしゃのタオルはどうだろう。端をつまむと、別の場所が垂れ下がる。引っ張ると折れ目が動く。表から見えていた角が、布の下へ隠れる。同じタオルなのに、一回動かすたびに、次に考えるべき状態が変わってしまう。
見えた形に手を伸ばすだけでは足りない。動かした後にどう変わるかを見て、手を出し直さなければならないのだ。
布操作を整理した研究レビューでも、変形する物体の認識・制御、布の種類や性質が変わったときへの対応が、重要な課題として挙げられている。薄いシャツでうまくいったやり方が、厚いタオルでもそのまま通用するとは限らない。[布操作の研究レビュー]
柔らかい物体を扱う難しさを示す概念図。特定製品の制御手順の再現ではありません。
「畳めるロボット」は、すでにあった。その先が難しい
ここは、過去の研究にもきちんと目を向けたい。ロボットによる衣類の折り畳みは、今回初めてできたことではない。
たとえば2022年の「SpeedFolding」は、二本のアームで衣類を広げ、指定された折り線に沿って畳む仕組みを報告している。色や形、硬さの違う、学習時には見ていない衣類への対応も調べていた。[SpeedFolding論文]
ただ、衣類を扱う作業台が用意された場所と、私たちの家は同じではない。ベッドの高さも、部屋の広さも違う。正面から届かなければ横へ回り込み、布が滑ったら持ち直す必要がある。
料理にたとえるなら、「いつもの調理台で一品をつくれる」から、「初めて入る台所でも、周囲を見ながらつくれる」への違いに近い。レシピの知識だけでなく、その場に合わせて動く力が問われる。
初めての30軒で試した、Helix 2.5
Figureが2026年9月17日に発表したHelix 2.5は、初めての住宅30軒で、片付け・タオル畳み・ベッドメイクを評価したものだ。同社の比較実験では、ほかの学習条件をそろえ、人間の動作データ「Index」による事前学習を加えると、作業を最後まで終えた割合が9%から56%になった。[Figureの発表・評価方法]
家に着いてから教え直したわけではない。ただし、作業そのものは別の場所で集めたデータで学ばせている。同じ土台から三つの作業向けに調整したモデルの評価であり、「何も教えていない万能ロボット」という話ではない。
今回の面白さは、その家専用の練習をしなくても、身につけた動きを別の家で役立てられたところにある。
自宅のタオルの置き方を少し変えるたびに、専門家を呼んで設定し直す。そんな機械だったら、家事を任せる前にこちらが疲れてしまう。多少違っても対応できることは、家庭へ入ってくるロボットにとって、便利な追加機能ではなく大事な土台だと思う。
Figure発表(2026年9月17日)の自社評価。成功は作業全体の完了。旧Helixとの比較ではありません。 出典:Figure
一度で決める器用さと、途中から立て直す力
発表では、立ち位置を変えたり、ベッドの周囲へ回り込んだりして、途中から立て直す動きも紹介されている。これも同社による報告で、私たちが実機を試した結果ではない。
それでも、ここには暮らしに近い面白さがある。人間も、毎回一発で布団の角をそろえているわけではない。「あ、ずれた」と引っ張り直し、届かなければ反対側へ行く。家事は、きれいに決まった動作を一度再生するだけでは終わらない。
ロボットを見ていると、つい速さや精密さに目が向く。でも、家の中では、少し失敗しても様子を見て続けられることのほうが、ありがたい場面もありそうだ。
任せられる未来へ、あと何が必要か
56%はFigureの自社評価であり、一般家庭へそのまま売り出せるという証明ではない。今回扱った三つの作業から、料理や介助までできると広げることもできない。
実際に家へ迎えるなら、きれいにできる割合だけでなく、所要時間や価格、うまくいかないときの止まり方も知りたい。靴下が絡まったら助けを求めるのか。人が途中で手を出しても安全か。ここから先は、研究成果を生活の便利さへ変えていく段階だ。
それでも私は、この方向の進歩にわくわくする。毎日の小さな家事は、一回だけなら大した負担に見えない。けれど、それが毎日積み重なる。身体を動かしづらい人にとっては、布団を整えること自体が大仕事になることもある。
人が楽をするための技術でいい。暮らしを回すために使っていた時間と力を、ほかのことへ向けられるなら、それは十分に大きな価値だ。
タオルを畳む。その小さな動作の先に、家事を「できる人が頑張るもの」から、もっと分かち合えるものへ変える可能性がある。ロボットの進歩を、そんな距離感でも見ていきたい。


