「その件は、以前の国会でどう答えていたか」。答弁を準備する職員が過去の資料を探すところから、AIが手伝うようになる。

デジタル庁は10月30日、政府職員向けのAI利用環境「ガバメントAI 源内」で、国会答弁の作成を支援するAIアプリの試行を始めた。質問の内容を整理し、過去の答弁や根拠資料を調べ、下書きを作るといった作業を支援する。

提供対象は約18万人の政府職員。ただし、18万人がすでに使ったという意味ではない。まずはプロトタイプを実際の業務で試し、使い勝手や出力の質を確かめる段階だ。

質問の分析、資料探し、素案づくりを手伝う

国会の答弁は、その場で思いついた説明を話せば済むものではない。政府としての方針や過去の説明と食い違わないよう、準備の段階で資料を調べ、内容を確認し、関係する部局と調整する必要がある。

今回のアプリは、その準備を支える。デジタル庁が挙げているのは、質問の分析、過去の答弁や根拠情報の検索・分析、答弁素案の作成、整合性や表現のチェックだ。

公開された概要資料では、質問の要旨や追加情報を入力し、登録した過去答弁・想定問答集などから参照する資料を選ぶ流れを紹介している。作った素案は自分で編集でき、Wordファイルとして出力できる。

開発には16省庁の答弁作成経験者ら102人が評価に参加し、一部の意見はすでに機能へ反映したという。この数字も、AIの正答率や業務改善の効果を表したものではない。実務を知る職員に使い方や出力を見てもらい、開発を進めていることを示している。

AIによる下書き支援と、職員の確認・調整、大臣等の答弁責任を分けた整理図。実際の画面や業務手順の実測ではありません。

AIによる下書き支援と、職員の確認・調整、大臣等の答弁責任を分けた整理図。実際の画面や業務手順の実測ではありません。 出典:デジタル庁の公表情報をもとに編集部作成

下書きができても、そのまま答弁にはならない

気になるのは、AIの文章が政府の公式見解になってしまわないか、という点だ。

デジタル庁は、AIが誤った内容を出す可能性を明記し、出力の正確性を保証していない。利用する職員には、元の資料と照らし合わせ、事実関係や過去の答弁、政府の方針との整合性を確認することを求めている。

アプリが作るのは、あくまで準備に使う素案だ。各府省庁が内容を確認・調整し、最終的には大臣などが責任を持って答弁する。AIが政策を決めたり、国会で自動的に答えたりする仕組みではない。

ここは、単に「最後に人が見る」と付け足すだけでは足りない。出典を探す時間が短くなっても、引用した答弁が今回の質問に本当に当てはまるかを考える仕事は残る。うまく書かれた文章ほど、その確認を省かないことが大切になる。

約18万人は提供対象、102人は開発時の評価参加者、2027年1月は本格提供予定。実利用数、正答率、提供済みという意味へ読み替えないための整理図。

約18万人は提供対象、102人は開発時の評価参加者、2027年1月は本格提供予定。実利用数、正答率、提供済みという意味へ読み替えないための整理図。 出典:デジタル庁の公表情報をもとに編集部作成

本格提供は2027年1月を予定

今回のプロトタイプは、第222回臨時国会での利用を通じて改善し、2027年1月の通常国会での本格提供を目指す。現時点では予定であり、効果や精度が確定したサービスとしての発表ではない。本誌もアプリを試用していない。

この取り組みで注目したいのは、「AIが答弁を書く」という目立つ部分より、その前後にある資料探しと確認だ。デジタル庁は、検索や形式を整える作業の負担を減らし、質問の意図や政策の背景を考えることに職員が時間を使えるようにしたいとしている。

下書きが速くできることと、よい答弁ができることは同じではない。それでも、資料を探す作業に追われず、何をどう説明するかを考える時間が増えるなら意味はある。試行の先では、作成時間だけでなく、根拠を確かめやすくなったか、説明の質を保てたかも知りたいところだ。