雨の夜、川の様子が気になってライブカメラを開く。さっきより水が増えたようにも見えるけれど、暗くてよく分からない。画面の向こうには、ほかにも何十、何百ものカメラがある。

その全部を、人が見続けるのは難しい。

NECは10月23日、道路や河川のカメラ映像をAIで解析し、冠水や積雪などの変化を数値で捉える技術を発表した。自治体やインフラ事業者が運用する既設のライブカメラを活用でき、2027年度中の実用化を目指すという。NECの発表

面白いのは、AIに「冠水していますか」と聞くだけではないことだ。

「冠水している」の一言では、変化が見えない

今回使うVLMは、画像と文章を扱うAIのこと。写真を見せて、何が写っているか説明してもらう、と考えると分かりやすい。

ただ、「冠水している」と答えられても、その一言だけでは、水が少し広がったのか、急に増えたのかは分からない。NECは、一般的なVLMには、事実と異なる回答や、画像のわずかな違いによる回答の揺れもあると説明している。

そこで同社が使うのが、AIの回答の裏で計算される数値だ。画像に対して「冠水している」という文章が、どれくらい出やすいか。その情報を解析し、現場の状況を連続的なスコアにする。

例えば、同じ道の映像を時間順に並べる。毎回「冠水している」という同じ答えになっても、スコアの推移なら変化を追えるかもしれない。これは仕組みを説明する例で、本稿で実際の映像を測定した結果ではない。

ここでのスコアは、水深をセンチメートルで測った値でも、氾濫する確率そのものでもない。「少しずつ変わっている」ことを、人が気づくための手掛かりにするものだ。

VLMの内部で計算する文の出やすさを比較し、変化をスコア化する仕組み。NECの研究者解説をもとにした編集部の説明図で、実測値ではありません。スコアは水深や氾濫確率そのものではありません。

VLMの内部で計算する文の出やすさを比較し、変化をスコア化する仕組み。NECの研究者解説をもとにした編集部の説明図で、実測値ではありません。スコアは水深や氾濫確率そのものではありません。 出典:NECの研究者解説

場所が変わるたびに、AIへの指示を書き直す負担も減らす

川を正面から撮るカメラと、斜めから道路を撮るカメラでは、見るべき場所が違う。冠水と積雪でも、確かめたい変化は違う。

今回の技術は、そうした災害の種類や構図に合わせて、AIへの指示文も自動で作る。よく似た前後の画像でもスコアがぶれる問題を抑えるため、指示文を順次調整する。その際、注目する場所や、考慮しなくてよい場所を指示へ反映するという。

カメラを増やすだけでなく、その映像を読む側の準備も軽くする。ここも、現場へ広げるうえで大事な工夫だと思う。

AIが避難を決める、という話ではない

NECは、運用者が現場や災害に合わせて、スコアから予兆や危険を判断する基準を設定できるとしている。AIが映像の変化を拾うことと、人が危険を判断して動くことは、分けて考えたい。

AIの変化検知を、運用者による現場確認と対応判断へつなぐ考え方。NEC公式発表をもとにした説明図で、実際の製品画面や、避難判断の自動化を表すものではありません。

AIの変化検知を、運用者による現場確認と対応判断へつなぐ考え方。NEC公式発表をもとにした説明図で、実際の製品画面や、避難判断の自動化を表すものではありません。 出典:NEC公式発表

発表には、誤検知や見逃しの割合、何分早く気づけたかといった実運用の評価値は示されていない。今すぐ各地で運用が始まったサービスでもない。どこまで頼れるかは、今後の検証と実用化の中身を見ていく必要がある。

それでも、すでにあるカメラに、変化を読み取る仕組みを足せるという方向には期待したくなる。

映像は映っていた。でも、人がずっと見ていられなかった。その隙間をAIが埋め、必要な画面へ人の目を向けられるなら、カメラの役割は変わる。単に「見られる」ものから、変化に気づくためのものへ。今回の発表は、そんな可能性を感じさせる。