電話で予約を取るとき、こちらはいつも、きれいな一文で話しているわけではない。「来週の……金曜日で」と途中で考えたり、相手の説明に「あ、そこは大丈夫です」と口を挟んだりする。
そんな小さな間合いも扱える音声AIを、NTTが研究している。10月26日に発表した技術は、相手の声を聞きながら話し、発話・聞き取り・待機を切り替えるものだ。予約情報などを外部システムで調べ、業務の流れに沿って応対する機能も備えるという。NTTの発表
声が人間らしいだけでは、電話は使いやすくならない。話の続きを待ってくれるか。こちらが話し始めたら、説明を止めてくれるか。今回の発表で面白いのは、そういう「会話のしやすさ」を正面から扱っていることだ。
途中の沈黙は、話し終わりとは限らない
文字のチャットなら、送信ボタンを押したところで発言が一区切りになる。音声には、そのボタンがない。
例えば「金曜日の……」と予定表を見ている間に、AIが返事を始めたらどうだろう。「午後がいいんです」と続けるつもりだったのに、会話がかみ合わなくなる。逆に、AIが長く説明しているとき、こちらが質問を挟んでも止まらなければ、最後まで待たされる。
NTTは、相づちを打つ、相手の続きを待つ、割り込まれたら話すのを止める、といった動作を扱う。単に、質問の音声を受け取ってから答えを読み上げるだけではなく、会話の途中でも相手の声を受け取る設計だ。
ここで挙げた予約のやり取りは、仕組みを説明するための例。RINKAKUがこのAIを試した会話ではない。
続きを待つ・割り込まれたら発話を止める、という動作の説明図。台詞、長さ、間隔は編集部が作った架空例で、NTTの公開デモやRINKAKUの試用記録ではありません。発話停止と、割込みの意図理解は別です。 出典:NTT公式発表(発話・聞取・待機の切替)
返事の速さと、待つ能力を別々に測った
同社は、日本語のコールセンターを模した400対話で、返事までの時間、話の続きを待てた割合、割り込まれた際に発話を止められた割合を評価した。
発表された平均応答時間は0.43秒。比較に使った日本人オペレーターの平均は0.31秒だったという。発話の途中に間が空いたとき、続きを待てた割合は92.9%と示された。AI側の数値は、模擬対話による評価の結果だ。応答時間をどこからどこまで測ったかや、待機を評価した機会の総数は、今回確認した資料には示されていない。評価方法と結果
数字を見るうえで、もう一つ分けたいことがある。「割り込みに対応できた」とは、この評価ではAIが発話を止められた、という意味だ。その後の言い直しを正しく理解し、予約内容まで直せた割合を示したものではない。
返事が速いことと、話を正しく聞けることは別。その両方がそろって、ようやく安心して用件を伝えられる。
NTTが報告した平均応答時間は音声AI0.43秒、日本人オペレーター0.31秒。AI側は、日本語コールセンターを模した400対話での評価。人間側の母数や分散は今回の資料では未確認です。各回の保証や会話能力全体の同等性を示す値ではありません。待機・割込み停止率は数値化していません。 出典:NTT公式発表(同社評価の平均応答時間)
うまい返事だけでなく、予約状況も調べてほしい
電話の相手として考えると、会話が滑らかになった先にも仕事がある。
例えば、空いている日を案内するには予約状況を調べなければならない。商品について答えるなら、古い知識ではなく、いま扱っている情報が必要になる。
NTTによると、今回の技術は、指示文を変えて予約受付や問い合わせなどの応対を指定できる。必要に応じてデータベースや、顧客情報を管理するCRMを参照・更新する機能も備える。NTTは、会話のタイミングと業務の手続きを、一緒に扱おうとしている。業務指示と外部システム連携の説明
もっとも、予約を確定する前の確認や、情報を間違えて更新しない仕組みまで、今回の発表で詳しく示されたわけではない。実際の窓口へ入れる際には、話し方だけでなく、手続きの正確さも問われる。
今すぐ使える新サービス、という発表ではない
NTTは11月の「NTT R&D FORUM 2026」での展示を予定し、コールセンターでの実運用を見据えた共同実験を計画している。一般向けの提供日や料金、公開APIは今回案内されていない。
だから、現時点で「電話応対を丸ごと任せられる」と結論づけるのは早い。それでも、注目したい方向ははっきりしている。
人が機械の話す順番に合わせるのではなく、機械の側が人の間合いに合わせる。思い出すために少し黙っても、説明の途中で質問しても、用件が先へ進む。音声AIが日常の窓口になっていくなら、こうした地味な振る舞いこそ、使い心地を大きく変えるはずだ。


