商品写真のマグカップだけ赤くしたい。取っ手の形や、隣の商品のロゴはそのままでいい。そんな編集でほしいのは、絵を丸ごと描き直す力ではなく、「変えるところだけ変える」力だ。
Adobe Researchとカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者らが10月29日に公開した論文「EditAgent」は、この問題を、画像生成モデルの性能だけでなく、修正の仕方と結果の選び方から考えている。研究の発表であり、Photoshopの新機能が一般提供されたというニュースではない。
直した絵を直すか、同じ画像から候補を作るか
EditAgentは、生成AIだけでなく、部分的な色変更や物の除去などの手段を使い分ける。同じ編集の候補は、同じ入力画像から並行して作る。AIが候補を選ぶ際には、全体の見た目だけでなく、変更箇所の拡大や差分などの記録も渡す。
「色は合ったけれど、取っ手が変わった」という候補と、「形は残ったけれど、色が違う」という候補があれば、比べたいのはその違いだ。見栄えのよい一枚に点を付けるだけでは、頼み事が済んだかどうかは分からない。
ただし、複数の作業を全部、最初の写真からやり直すわけではない。一つの作業で採用した画像は、次の作業へ引き継ぐ。その後の修正で、前に直した部分が失われていないかも確認する仕組みだ。
一つの修正の中で、同じ画像から候補を作ってAIが選び、採用画像を次の修正へ引き継ぐ。論文v1をもとに編集部作図。枝数は説明用で、実画像・実出力や性能の再現ではありません。 出典:EditAgent論文v1。
研究者らは別の比較実験で、同じ画像編集モデルと判定用AIを使い、画像生成を双方4回までにそろえた。Photoshopを使う専門家5人が144例を評価し、元の画像から候補を作る方式を102例、順に修正を重ねる方式を28例で選び、14例は引き分けだった。論文の「78.5%」は、引き分けを除いた130例で前者が選ばれた割合だ。画像編集の成功率が78.5%、という意味ではない。
Photoshop専門家5人による144例の方式比較。棒は各件数を144例の共通基準で示す。78.5%は引き分け14例を除いた102/130で、画像編集の成功率ではない。同じ編集モデル・判定AIを使い、画像生成は双方4回まで。EditAgent論文v1をもとに編集部作図。本誌の実測ではありません。 出典:論文v1の方式比較。
写真を壊さずに直す、従来の工夫
写真の加工では、以前から元のデータを壊さない工夫がある。Adobeの公式ヘルプも、明るさや色を後で変え直せる調整レイヤーや、一部分を削除せずに隠すマスクなどを紹介している。
たとえば、写真全体を少し明るくしたいだけなら、明るさの調整を別に残す。商品だけ色を変えたいなら、対象の範囲を分ける。生成AIへ頼む場合も、元画像と採用途中の画像を別々に保存し、「どこを直したか」と一緒に「どこが変わっていないか」を見比べたい。
EditAgentの処理がそのまま、今使っているアプリでできるとは限らない。論文は単体の編集モデルより推論時間が約10倍かかると説明している。候補を選ぶAIへの呼び出しが少なくても、画像生成や全体の処理まで安く、速くなるとは言えない。本誌も実装を動かして比較したわけではない。
それでも、この研究から考えたいことは身近だ。うまく直らない画像に「もう一度」と頼み続ける前に、その修正を始める前の画像に戻り、別案を比べる。AIに求めるのも、派手に描き変えることばかりではなく、残してほしいものを残すこと。写真を直す道具なら、そこが気になる。
出典:EditAgent論文v1(2026年10月29日提出)、Adobe公式ヘルプ。11月2日確認。マグカップは仕組みを説明するための例で、論文の実験画像や本誌の検証結果ではありません。


