宇宙人からの電波は届いているのか。その答えを探す研究に、AIエージェントが加わった。担当するのは、観測データから怪しい信号を探すことだけではない。望遠鏡を向け、データの状態を確かめ、結果をグラフにするところまで、研究者の言葉による依頼で動かすという。
NVIDIAが10月30日に紹介したのは、Breakthrough ListenとSETI Instituteによる取り組みだ。舞台は、米カリフォルニア州北部にある電波望遠鏡「アレン・テレスコープ・アレイ(ATA)」。地球外の知的生命が出す人工的な電波の痕跡を探す、SETIと呼ばれる研究を行っている。
もちろん、宇宙人を発見したという発表ではない。それでも面白いのは、チャットで説明を返すAIが、今度は本物の観測装置を扱う仕事に入ってきたことだ。
望遠鏡の操作から、観測結果のグラフまで
ATAは、42基のアンテナを組み合わせて宇宙の電波を集める施設だ。目でのぞく望遠鏡とは違い、受け取った電波をコンピューターで処理して、宇宙で何が起きているのかを調べる。SETI Instituteの施設紹介では、地球外文明の探索だけでなく、超新星やパルサーなどの研究にも使われていることが分かる。
今回の仕組みでは、「Nexus」というソフトウェアが観測装置や計算機、データ処理の状態をまとめ、AIエージェントがそれらを操作する。NVIDIAの説明によると、自然言語で依頼すれば、アンテナを向ける、観測のための調整をする、データのエラーを見つけて修正する、結果をグラフにする、といった作業を実行できる。
研究者は、データが途中で失われていないか、どの周波数にどんな信号が現れているかを画面で確認できる。AIに一度頼んだら、人は観測から離れてよい、という話ではない。
ここでは、AIの役割を二つに分けると分かりやすい。大量の電波データを計算するのはGPUと信号処理ソフト。言葉による指示を受け、装置やソフトを連携させるのがAIエージェントだ。すべての計算を、文章を生成するAIに任せているわけではない。
研究者、AIエージェント、GPUの役割を分けた模式図。処理順や実際の画面を再現したものではありません。 出典:NVIDIAの紹介記事をもとにRINKAKU作成
実例は「かに星雲のパルサー」。宇宙人の信号とは違う
NVIDIAは具体例として、かに星雲にあるパルサーを、AIを使ってリアルタイムに検出したと報告している。パルサーは高速で回転する恒星の残骸。地球外文明の送信機ではなく、自然の天体だ。
この区別は大切だ。AIが観測データから信号を捉えたことと、その信号が地球外文明のものだと確かめたことは、まったく違う。
SETI Instituteが掲載する検出時の確認原則でも、候補が見つかったら他の研究者と検証し、できれば異なる装置や手法を使う複数の施設で独立して観測するよう求めている。AIの判定だけで「発見」とはならない。
今回の発表では、AIが誤った信号をどれくらい拾うのか、地球由来の不要な電波をどの程度除けるのか、といった精度は示されていない。パルサーの検出は興味深い実例だが、それだけで地球外文明を探す能力が実証されたとは言えない。
今回報告されたパルサー検出は自然の天体の観測。地球外文明の証明とは別で、候補の認定には独立した確認が必要です。天体の外形や観測データを再現した図ではありません。 出典:SETI Institute掲載の検出時の確認原則などをもとにRINKAKU作成
AIが観測所にいる理由
もう一つ気になったのは、AIの推論を動かす場所だ。NVIDIAによると、推論は観測装置の近くにあるオンプレミス環境で行う。同社は、RTX PRO 6000 Blackwell GPUを使い、毎秒2.4テラビットのデータを処理できると説明している。これはデータを扱う量の数字で、宇宙人の信号を見分ける精度ではない。GPUの台数や測定条件も、NVIDIAの紹介記事では明らかにされていない。
大量のデータを遠くへ送ってから返事を待つより、観測している場所で処理する。装置を動かすAIにとっては、モデルの賢さだけでなく、データと装置のそばにいることにも意味がある。
今のところ、地球外文明の発見が近づいたかどうかは分からない。ただ、AIエージェントの使い道が、メールや資料づくりだけではないことはよく伝わってくる。望遠鏡を動かし、観測の状態を見張り、研究者が結果を調べられる形にする。宇宙人が見つかる前にも、AIが手伝える仕事はずいぶんありそうだ。
※本記事は公式発表と公開資料に基づくニュース解説です。本誌が観測装置を操作したり、検出性能を試したりしたものではありません。


